月下の酒宴

鯰尾と一期が月見酒をする話です。


 ここをやり直せば、と傍らに佇む弟は言った。



「駄目だよ。それでは敵と同じになる」
 そう咎めると彼はぴくりと肩を揺らし、けれどこちらを振り返らなかった。
 黙したままどこか遠くを見つめるように大阪の地へ視線を送る弟の、刀を握るその手が僅かに震えているように見えて、一期一振はそっと肩に手を置いた。
「信じよう。今の主を」
 
 ──彼は、頷くことはなかった。





 静まりかえった本丸の廊下に佇む影を見て、一期一振は足を止めた。
「──鯰尾? 何をしているんだい」
「いちにい……」
 震える声で一期一振の愛称を呼びながら、弟──鯰尾藤四郎はこちらを振り向いた。彼は寝間着姿であったが、それは当然である。今の時刻は、とっくに定められた就寝時間をすぎているどころか日付すら変わっていた。
 消灯された本丸の廊下は暗く、非常用に灯された行灯が朧気にお互いの姿を浮かび上がらせている。
「駄目じゃないか、こんな時間まで起きていては。明日も出陣だろう?」
 自身がその手に持つ物をさりげなく後ろ手に隠しながら、一期一振は鯰尾藤四郎に近づいた。
 刀剣男士は一にも二にも体力が重要である。体力が重要だということは、ひいては睡眠も重要だということだ。質の良い睡眠は、体力回復の一番の薬である。何よりも鯰尾藤四郎は第一部隊で日々厚樫山に出陣しており、他の刀剣男士より過酷な戦闘を行っている。こんな深夜まで起きている行いは、あまり褒められたものではなかった。
「う、ん……そうなんだけど……」
 ゆるゆると鯰尾藤四郎は首を縦に振った。近付いてやっと伺えたその顔が僅かに沈んでいるように見えるのは、あまりに頼りない行灯の灯火のせいだろうか。
「早く寝るんだよ」
 一期一振はそう言って、空いた右手で鯰尾藤四郎の頭をぽんとひとつ叩くと踵を返し──その背中を暖かい衝撃が襲った。
 驚いて首だけで背中を見れば、鯰尾藤四郎が一期一振の背中に抱きついていた。
「鯰尾?」
 この位置からでは、鯰尾藤四郎の表情は伺えない。戸惑いながら弟の名を呼ぶと、その声に返事をしたわけでもないだろうが、鯰尾藤四郎は背中から腕を回してしっかりと抱きしめた。
「寝たくない……」
 普段の彼からは想像がつかないような、ひどく弱々しい鯰尾藤四郎の声を聞いて一期一振は面食らった。
 鯰尾藤四郎は、普段からあまり手の掛からない弟だった。
 世話が焼けるという意味であれば短刀の弟たちの方が余程そうだし、鯰尾藤四郎はそんな短刀たちの面倒をよく見ていた。同じ脇差の骨喰藤四郎の世話も甲斐甲斐しく焼いている。一期一振は、日常生活に限れば鯰尾藤四郎を比較的安心して見守っていた。まあ、時として突拍子もないことをやりだす場合もままあるため、目が離せるかというと話は別なのだが。
 けれど、鯰尾藤四郎はふとした時に暗さを覗かせる。
 たとえば、初めて共に大阪の地に降り立ったあの時のように。
 ──この本丸には、程度の差こそあれ心理的外傷トラウマを負っている刀剣男士は少なくない。そしてその中には、鯰尾藤四郎も含まれる。普段は明るく振る舞っているが故に、その落差が余計に彼の暗さを際だたせているように一期一振には感じられていた。
 自身を抱く腕に強い力が籠められているのを感じて、一期一振は苦笑した。後ろから回された鯰尾藤四郎の掌に自らの手を重ねて、安心させるように握ってやる。その手は繋いだままにゆっくりと腕を解いて、どこか泣き出しそうな表情の鯰尾藤四郎の顔を覗き込んだ。
「──ちょっと、私に付き合ってくれるかな?」
 そう言って、一期一振は鯰尾藤四郎の手を引いた。





 縁側へと足を踏み出した瞬間、鯰尾藤四郎はわあ、と感嘆の声を上げた。
 普段から季節毎に装いを変える本丸の庭は、今は柔らかな月光に照らされて昼間とはまた異なった趣を見せている。切り取られた夜空を写す池の水面は、風に揺らされて僅かにその像を乱した。
 降り注ぐ光に誘われるように顔を上げると、藍の帳が降りた夜空には皓々と照る満月が浮かんでいる。その周囲に真砂のような星をまばらに散らせて、月は幽玄に光を放っていた。
「見事なもんだろう」
 一期一振は食い入るように満月を見つめる弟に微笑みかけながら、縁側へと腰を下ろした。雲ひとつ無い満月の夜は、灯りを必要としないほどに明るい。一期一振に倣って鯰尾藤四郎も隣に腰をかけた。
「いち兄が起きてたのは、月を見てたから? まあ、確かに綺麗だけど」
 鯰尾藤四郎は首を傾げた。口には出さないものの瞳では物好きな、と語っている。
「まあ、それもあるけど──あと、これ」
 一期一振はそれまで隠していた物を、自身と鯰尾藤四郎との間に置いた。
 鯰尾藤四郎が目を丸くする。
「……お酒?」
「月見酒、ってやつだよ」
 一期一振は微笑みながら二人の間に置かれた陶磁の徳利に手を添えた。
 この本丸では、刀剣男士たちへ一応の給金が支払われている。一応の、と付くのは、基本的な給料は衣食住の提供という形になっているためだ。本丸で生活をしていれば基本的に衣食住のどれも不足することはない。とはいえ、刀剣男士たちも人の身を持つならば多少の金を欲しかろう、と考えた審神者の計らいで金銭が与えられているのだった。
 中には給金で小物を買うような刀剣男士もいるようだが、大多数の刀剣男士の使い道は食品類だった。
 長い間物質だった刀剣男士たちには金というものの使い道はあまり思い浮かばず、畢竟、本丸内ではあまり口に出来ないような飲食物に刀剣男士の関心は向けられたのであった。一期一振の弟である短刀たちは甘味類をよく買っているし、次郎太刀などは給金をほぼすべて酒に変えている。一期一振は万が一を考えて基本的に貯金しているが──稀に、こうして酒を買って嗜むことがあった。
「いち兄でもお酒飲むんだ」
 鯰尾藤四郎は少々呆れたように言った。
「綺麗な風景は何よりの酒の肴だからね」
 一期一振はこれまでにも、冬は雪見酒、春には花見酒と風景を肴にして酒盛りを行っていた。その時は自然と集まった他の刀剣男士もいたのだが、今日は気まぐれに一人で月見酒を行おうと酒を台所へ取りに行ったところで、鯰尾藤四郎と顔を合わせたのであった。
「ふうん」
 よくわかんないや、と鯰尾藤四郎は縁側から投げ出した足をぶらぶらと振りながらそう言った。
「宴会とかでもお酒、飲まないからなー。いち兄もそうだったよね?」
「……まあ一応、お前たちの手前、ね」
 一期一振ははにかんだ笑みを浮かべた。
 決して禁じたわけではないのだが、弟たちがこちらに気を使って宴会の席でも飲酒をしないように努めていることには気が付いている。弟たちは幼気な容姿をした者ばかりだが、その実、中身は長い時を重ねた付喪神である。本当は酒を好む者も中にはいるだろう。それを思うと、一人だけ好き勝手に酒を飲むのは少々躊躇われるのであった。
 ならば弟たちにこちらから飲酒の許可を出せばいいのでは、と自分でも思ったりするのだが、長男心とは複雑なのである。
「──だから、今日は──特別だよ」
 言いながら、一期一振は盃に透明の酒を注いで鯰尾藤四郎に差し出した。
「えっ!? お、俺はいいよ」
「いいから、いいから」
 押しつけるようにして渡すと、鯰尾藤四郎は不承不承の体で受け取った。
 鯰尾藤四郎はしばらく険しい顔で、警戒するように満月を写す盃を睨んでいたが、やがて一口飲むと眉を顰めた。
「……なんか。苦くて、あんまり美味しくない」
「はは」
 素直な感想に、一期一振は笑った。
「眠れないときはこれが一番。不思議なもんだが、少しお酒を飲むと寝やすくなるんだよ。寝酒というやつだね」
 癖になっては困るけど、と言いつつ一期一振は自らも酒を口に含んだ。心地よい苦味が口中に広がり、次いで芳醇な香りが鼻腔を抜けていく。美味いな、と一期一振はしみじみと酒を味わった。
「眠れないとき、かあ……」
 鯰尾藤四郎は呟くと、再び盃に口をつけた。やはり苦そうに顔を歪め、それでもぐいっと一気に盃の中身を飲み干す。
「……鯰尾は、どうして寝たくなかったんだい?」
 空になった盃に新しく酒を注いでやりながら──ちょっと嫌そうな顔をされたが──頃合いを見てそう切り出すと、鯰尾藤四郎は口を噤んだ。一期一振は強ばった様子の弟を見て、これ以上先を促すのをやめた。何も言わない──否定も肯定もないということは、話す気が無いというわけでなく話すことを躊躇しているのだろう。それを無理に語らせるつもりは一期一振には無かった。鯰尾藤四郎が重圧を感じないよう、一期一振は口を閉ざしたままの彼から視線を外して庭を眺める。
 静かな夜だった。もう少し夏が近付けば、緑豊かな本丸では虫の声が聞こえてくることだろう。しかし今は虫が鳴き出すには早い季節で、今日は木々を揺らす風も無い。ともすればお互いの息づかいさえ聞こえてくるのではないかと、そう思うような静寂に包まれている。
 けれど物寂しさを感じないのは隣に兄弟がいるからなのか、それとも月が空を満たすかのように圧倒的な光を放っているからなのか。一期一振はそんなことを考えながら、再び盃を口に運んだ。
 そうしてお互いに黙したまま何度か盃に口をつけ──やがて、鯰尾藤四郎は口を開いた。
「……いち兄は、炎の夢って見る?」
「見るよ。たくさん、ね」
 こともなげに同意すると、鯰尾藤四郎は一期一振は振り返った。
「……俺も、見るんだ」
 向き合った鯰尾藤四郎のその瞳の奥に、一期一振は揺れる紅を見た気がした。
 今にも泣き出しそうに顔はゆがんでいて、唇は細かに震えているにも関わらず、鯰尾藤四郎の瞳に涙は浮かんでいなかった。まるで涙というものが枯れたかのように、ただただ深い翳りだけを纏っている。鯰尾藤四郎の瞳はこちらを視ているのに、見てはいない。遠くを──失われた過去を見るかのように、鯰尾藤四郎は瞳を暗く瞬かせている。
 ──この鯰尾藤四郎の表情は、いつか大阪の地で見た時と同じものだ。一期一振はそう感じた。
 一期一振は弟を安心させるかのように、敢えて口の端に笑みを乗せた。
「怖い?」
「怖くはないよ」
 鯰尾藤四郎は即答した。
「……でも、その夢を見た後は、目を閉じるのが嫌で……」
 また、あの夢に囚われるんじゃないかって。そう言いながら、鯰尾藤四郎は段々と顔を俯かせた。
 それはつまり怖いということではないか、と一期一振は思ったりもしたのだが、否定する鯰尾藤四郎に指摘するのも意地が悪い。殊更に気にしてやらない方がいいだろう。
「炎の夢は、私も怖い」
 言いながら一期一振が鯰尾藤四郎の頭に手を置くと、彼はびくりと体を震わせた。顔を上げてこちらを見つめる鯰尾藤四郎の瞳は、炎の影を薄くした──普段に近いもので一期一振は胸を撫で下ろした。それでもまだ少し瞳は不安げに揺れていたが。
 その視線を受けながら、ゆっくりと頭を撫でてやる。
「でも、怖くていいんだよ」
 そう言うと鯰尾藤四郎は戸惑うように、不安そうに眉を顰めた。
「ここは本丸だ。主がいるし、私もいるし、骨喰だっている」
 一期一振は月光をその身に受けながら、優しく微笑んだ。
「怖いときは、いつでも私に言いにおいで」
 せめて、一緒にいることは出来るから。
 そう告げると、鯰尾藤四郎は呆然と目を見開いた。いちにい、とその唇が動いたが、声は出なかった。
 鯰尾藤四郎はくしゃりと顔を歪めて、けれどその表情を隠すようにすぐに顔を伏せる。
「……怖くはないってば」
 ややあって、そう言いながら顔を上げた鯰尾藤四郎の表情はいつも通りで、且つ少し不満げだった。一期一振は思わず苦笑する。少しは涙を見せてくれるかと思ったのだが。
「……でも」
 鯰尾藤四郎は躊躇うように視線を逸らしたが、しかし再び一期一振に視線を合わせ、
「うん」
 しっかりと、首を縦に振った。
 ──あの時、あの大阪の地で、鯰尾藤四郎は一期一振の言葉に頷かなかった。
 けれど、今は。
 一期一振はその返事になんだか嬉しくなって、もう一度鯰尾藤四郎の頭を撫でた。
「良い返事だ」
 笑いながらそう言うと、鯰尾藤四郎は恥ずかしがるように眼を細めたが、それでも大人しくされるがままだった。
「……なんか、眠くなってきた」
「酒が回ってきたのかもしれないね。さあ、もう部屋にお帰り」
 一期一振は頭から手を離すと、瞼をこする鯰尾藤四郎の手を引いて立たせてやる。
 鯰尾藤四郎はじっと一期一振を見つめてから、その手を握り返した。
「……いち兄と一緒に寝たい……」
 蚊の鳴くような声でそう言われ、一期一振は思わず眼を瞬かせた。それから、思わず苦笑してしまう。
 なかなかどうして、甘える鯰尾藤四郎は可愛げがある。
「でも」
「──?」
 一期一振が返答をする前に、鯰尾藤四郎は自ら否定の言葉を口にした。
 不思議に思いながら見つめる一期一振に向かって、彼は寂しげな微笑みを浮かべた。
「こんなこと言ったら、いち兄困っちゃうよね。大丈夫、ちゃんと部屋に帰るから」
「鯰尾……」
 その微笑みがどこか痛ましくて、一期一振は思わず弟の名を呼んだ。
 確かに、一期一振の寝室である太刀部屋に鯰尾藤四郎を連れて行くのは色々な意味で躊躇われた。けれど、先の発言の手前、鯰尾藤四郎の頼みを無下にするのも気が咎める。何より、冗談めかしてはいるものの、あの言葉は鯰尾藤四郎の本心なのだろう。
 だから。
「ああ、鯰尾の言う通り、きっと大丈夫だよ」
 一期一振はそう言って、微笑みながら鯰尾藤四郎の顔を覗き込んだ。
「鯰尾には、同じ部屋にも大好きな兄弟がいるだろう?」
 その言葉に、鯰尾藤四郎は戸惑うように少し間を空けて──それでも、こくりと頷いた。
「部屋まで送るよ」
 せめてそこまでは一緒にいてあげられるように。一期一振はその言葉は胸中に留めて、鯰尾藤四郎と手を繋いだまま歩き出した。左手に徳利等々を持ちながら、右手でしっかりと鯰尾藤四郎の手を握る。鯰尾藤四郎は無言で、繋がれた掌に視線を注いでいた。
 脇差部屋の前にたどり着くと、鯰尾藤四郎はちらと一期一振を見上げて、それから名残惜しそうにゆっくりと掌を解いていく。部屋の扉に手をかけたところで、鯰尾藤四郎はこちらを振り返った。
「……いち兄、おやすみなさい」
 ぎこちなく、それでも笑みを浮かべる弟に、一期一振も笑顔を返した。
「おやすみ、鯰尾」
 灯りの消えた脇差部屋に吸い込まれるように入っていく鯰尾藤四郎を見送って、一期一振はひとつ息を吐いた。一期一振もだいぶ眠くなってきてしまった。酒がどうこうというよりも時刻が時刻であるため、まあ当然だった。
 とはいえ、眠るのは徳利や盃の後かたづけをしてからである。脇差部屋から台所へと向かう途中で再び縁側にさしかかり、一期一振はふと庭へ視線をやった。中空では相変わらず白々と光る満月が本丸を照らしている。
 ──今こうして一期一振が見上げている月は、″あの日″も同じように地上を照らしていたのだろうか。炎の夢の話をしたからか、ついそんなことを考えてしまう。
 けれどあの日を思い返そうとしても、一期一振の脳裏に想起されるのは炎ばかりだった。
 鯰尾のことは言えんな、と胸中でひとりごちて、一期一振は懊悩を振り切るかのように満月に背を向けた。





 明けて翌朝。一期一振はほのかな眠気を覚えながら本丸の廊下を歩いていた。鯰尾藤四郎の夜更しを注意しておいて、この有様である。せめて弟たちには気づかれぬように努めよう、と一期一振は両手で自らの頬を叩いて自らに喝を入れた。
 食堂として使われている大広間に一期一振が足を踏み入れた瞬間、真正面から乱藤四郎が飛びついてきた。
「いち兄、おはよー! ボクねえ、頑張ってお味噌汁作ったんだよ!」
「おはよう、乱。それは楽しみだなあ」
 言いながら、一期一振は無邪気に笑う乱藤四郎の頭を撫でた。
 この本丸での食事は、まず大まかな献立を堀川国広と燭台切光忠が取り決め、それを日毎によって定められた数名の食事当番の者が人数分用意することになっている。今日は乱藤四郎が食事当番だったようである。
 広間には既に二十人近い刀剣男士が集まっている。主に早起きな短刀たちの姿が多い。前田藤四郎や平野藤四郎は、既に行儀良く正座をして食卓についている。
「──だからー、間違えたんだってば」
 乱藤四郎にじゃれつかれていると、廊下からそんな鯰尾藤四郎の声が響いた。
 思わず振り向くと、鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎が何やら言い合いながら広間へと入ってくる。その後ろには部屋を同じくするにっかり青江、堀川国広、浦島虎徹が続いていた。
「どう間違えたら二段寝台の上に入ってくるんだ」
「だから寝ぼけてたの。つい梯子を上がっちゃったの」
「意味が分からない」
 見るからに不機嫌そうに骨喰藤四郎は吐き捨てた。
「……何かあったのですか?」
 一期一振はこっそりと、にっかり青江に問いかける。にっかり青江はいつも通り薄い笑みを浮かべながら、
「ああ、鯰尾君が寝ぼけて骨喰君の布団に入ってきたみたいでね」
「え」
「それだけなら良かったんですけど」
 と、堀川国広が苦笑しながら引き継いだ。
「鯰尾って寝相が悪──ええと、あまり良くないので、骨喰の掛け布団を奪っちゃったみたいで」
「一緒に寝るとそういうこと起こるよねー」
 浦島虎徹は自らにも思い当たる節があるのか、うんうんと首を縦に振りながらそう言った。
 つまるところ鯰尾藤四郎が骨喰藤四郎の布団へ入り込み、その結果布団を奪われた骨喰藤四郎は快眠できず、機嫌が悪いということか。
 一期一振は思わず笑ってしまった。鯰尾藤四郎は、骨喰藤四郎にはまだまだ素直に甘えられないようである。
 ──鯰尾藤四郎が兄弟と一緒に寝たがっていたという事実を、言い合う二人に告げたら一体二人はどんな顔をするのだろう。
 そんな、少し意地の悪いことを考えながら。
「──こらこら、二人とも」
 一期一振は長男らしく、喧嘩の仲裁に入った。